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札幌の男性弁護士暴力事件に垣間見える心の問題

札幌市中央区大通にあるカウンセリングオフィス プログレスの向 裕加です。

今日は朝から雪が降っていますね!かなり本格的な雪の降り具合に、ちょっと焦りました。というのも、実は、まだ、ちゃんとした衣替えをしていないんです(汗)。冬将軍を侮ってはいけませんね!

さてさて、先週の金曜日、札幌の30代の弁護士の男性がタクシーの運転手さんに暴行を働いたというニュースが流れましたよね。私の高校の同級生には、札幌で弁護士として活躍している人がかなりの数でいるので、一瞬、「え、誰なんだろう?知ってる人じゃないよね?」と思ったのですが、私たちは既に40代なので、とりあえず同級生の誰かが引き起こした事件ではないということがわかって、ホッと一安心。実名報道がされていないということで色々と物議を醸し出していましたが、昨日、書類送検されたというニュース(リンクからニュースの動画を観ることができます)とともに、ようやく実名報道もされたようです。

先週末から何度となく目にしているドライブレコーダーに残った映像。何度観てもひどい!タクシーの中という密室で逃げ場もなく、暴力を振るわれているとは言えども、事故にでもなったらそれこそ大事になる!とタクシーの運転手さんは必死に運転していたんでしょうね。「運転手さん、怖かっただろうな~」と、運転手さんに同情せずにはいられません。事故や大きな怪我がなかったのは、不幸中の幸いといったところでしょうか。

それにしても、この男性弁護士の威圧的な「オレ様」態度に、私は完全に圧倒されてしまいました。普段は穏やかな方なんだそうですが、そんな様子をイメージすることが難しいくらいです。お酒を飲んでいて起こした事件だということもあって、この男性弁護士のことを単に「酒癖が悪い」「酒乱だ」と思っている方が多いようですが、私がこの動画を観て、頭にパッと浮かんだのは「自己愛性パーソナリティの問題を抱えているのかも?」ということでした。

精神医学的な疾患の中には『パーソナリティ障害』と呼ばれるものがあり、『自己愛性パーソナリティ障害 Narcissistic Personality Disorder(以下、NPD)』は数あるパーソナリティ障害のひとつとして位置づけられています。【自己愛】という言葉は、一般的には「自分が大好きな人」というイメージを与えがちですが、精神医学的な意味合いはそれとは大分異なっており、NDPには以下のような特徴があります。

  • 本当はつらかったり、心細かったりするが、自分でそれを認めることができず「ありのままの自分」を受け入れられない
  • 心の底には「強い劣等感」や「自己無価値感」が渦巻いている
  • 脆く崩れそうな自尊心を「自分は万能で特別な存在だと信じること」「他者から肯定的な評価をされること」「優越感を得るため、自分より弱い人間を貶め見下すこと」で維持しようとしている(=不健全な自己愛)
  • 賞賛や注目、感謝や愛情を求める過剰な行動
  • 不安定な対人関係から生じる家庭生活や社会生活、職業生活における支障

NDPを抱える人の対人関係が不安定になりやすいのは、『理想化とこき下ろし』という両極端な対人評価をする傾向にあるから。どういうことかと言うと、相手が自分の言うことを聞く場合には笑顔で賞賛する(理想化)のですが、相手が自分の思い通りの反応を示してくれないと、途端にヒステリックになったり、不機嫌になったり、暴言を吐いたりする(こき下ろし)んですよね。

タクシーでの様子を見る限りでは、運転手さんが彼の思い通りの道を通らなかったことが暴行のきっかけとなっています。思い通りの反応を示さない運転手さんに対して、途端に男性弁護士はヒステリックになり、不機嫌になり、暴言を吐き、暴力にまで至ったという訳ですが、この一連の行動が、まさしくタクシー運転手に対する「こき下ろし」なのです。

そして、このように「こき下ろし」て「俺が上で、お前が下」とオレ様的に振る舞うことで、劣位にある他者を屈服させようとするのも、NDPの特徴。このタクシーの運転手さんからすると、男性弁護士は一応「お客様」になるので、優劣の関係は明確ですよね。「劣位にある運転手の自分は彼に屈服するしかない…」と男性弁護士に屈服しますが、運転手さんがそうすることによって「劣位性」が更に明確かされ、男性弁護士のオレ様的な振る舞いが助長される。そんな循環が容易に形成されてしまうのです。

もし、自分が考えていたルートをタクシー運転手さんが通ってくれなかったら、「はて、このルートだと遠回りになるな。困ったな。」と、私だったら(恐らく、これを読んでくれている大抵の方も!)そう思うと思います。「困ったな〜」と感じたら、みなさんはどうしますか?「このルートではなくて、こちらの道を通ってもらえますか?」とお願いするかと思います。これは、自分の困り感の解消に対する「助け」を求める行為なんですよね。

でも、オレ様的な振る舞いをしている人たちは「助けを求めること」ができません。特に、自分よりも「劣位」にある人に対しては、余計にそうすることができません。なぜならば、「助けを求めること」は、自分の「弱さを露呈」することであり、「弱さを露呈」すること自体が「負けである」と信じて疑わないところがあるからなんですよね。

今回詳しくは言及しませんが、NDPなどをはじめとするパーソナリティ障害については、あるセラピーの理論では、誰しもが満たされて当然であると考えられている「中核的感情欲求」が幼少期や思春期の傷つき体験などによって適切に満たされないことによって独特な考え方や行動パターンが形成され、後の人生において「生きづらさ」が生じると考えられています。この男性弁護士の暴言や暴力などを正当かするつもりは全くありませんが、その一方で、本人すらも気づいていない深いレベルでの過去の傷つき体験が癒えていないがために、このような事件に至ったのではないか?とも想像したりしています。

弁護士さんとは他人の困り事や問題を解決する仕事ですから、その人たちのストレスをも引き受けることを考えると、日々高いレベルのストレスに晒されているのは間違いありません。また、裁判は基本的に「勝ち」「負け」で判断されるものなので、安易に自身の「弱さ」を露呈することは不利になることが多いことを考えると、たくさんのプレッシャーを背負って生きていることと思います。でも、弁護士さんも所詮「人間」ですから、常に強くあれる訳ではありませんし、自分自身だって悩んだり、頭を抱え込んだりすることだってあるでしょう。

昨日のブログでもお話ししましたが、自分自身の問題や精神状態が不安定だと、他人の問題に向き合うことがしんどくなりますし、客観的/冷静的な判断をすることができなくなってしまうのは、臨床心理士も弁護士も一緒です。クライエントのケアができるのは自分自身のケアをして、万全かつ健全な精神状態があってこそ。

今回のような事件が起きれば、社会的な信用がガタ落ちになるリスクがあることを考えると、「何かが起きたときのための顧問弁護士」が企業にいるように、弁護士の方が「定期的な心のメンテナンスのための顧問臨床心理士/カウンセラー」を雇うことは、ご自身のリスク管理をする上でこれから大切になってくるかも知れません。弁護士の皆さま、ご検討ください!

カウンセリングオフィス プログレス
臨床心理士  向 裕加

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