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『夫の…』が思い出させてくれたカウンセリングの基本

札幌市中央区大通にあるカウンセリングオフィス プログレスの向 裕加です。先週末は大荒れになるという天気予報でしたが、それほどでもなくホッとしました。というのも、遠方からわざわざやってきてくださるクライエントさんがいらっしゃったから。そのクライエントさんが無事にいらっしゃることができたこと、そして、札幌にある数ある相談機関の中から、当オフィスを選んでくださったことに感謝です。

さて、今日は『夫のちんぽが入らない』の一節をご紹介することからスタートしたいと思います。

”私はひとりで抱え込むことの限界を知っている。死がまとわりつく苦しみも知っている。他人からは「些細なこと」とか「我慢が足りない」という言葉で簡単に片付けられてしまうことも知ってしまった。渦の中に引きずり込まれたら平常心ではいられないのだ。簡単に「わかるよ」とか「もっと大変な人もいるよ」と言われてしまう絶望感は、経験した人にしかわからないかもしれない。”

この箇所を読んだで、私は20代の頃のあるエピソードを思い出しました。

それは、友人と一緒にご飯を食べていたときのことです。今となってはその詳細を思い出すことができないのですが、確か、母とケンカし、母が私のことを理解しようとしてくれない…と話していた記憶があります。最初は私の話を聞いてくれていた友人ですが、途中で「ゆかのお母さんなんて、ましだって!全然良いよ。うちの母親なんかさぁ…」と、彼女のお母さんの話をし始めました。

きっと、彼女は気落ちしている私を励まそうと、自分の母親の話をしたのでしょう。そして、彼女が言っているように、確かに、私の母の方がましだと思いました。でも、同時に、私には彼女がこう言っているようにも思えたのです。
「そんなことは大したことがないよ」
「私の方が、もっと大変なんだから」
その日、話をしてもスッキリすることはなく、モヤモヤだけが残りました。そして、それ以降、母の話は彼女にはしないでおこうと思いました。

心配ごとや悩みなどをひとりで抱え込むには限界があることは、誰もが理解しているはずなのに、自分以外の人に率直に話すことができないのは、このような経験が、一種の傷つき体験になっているからだと思います。

悩みや苦悩は、他人のそれとは比較することがそもそもできません。その人が「大変だ」と思ったら、それは「大変なこと」なのです。マクドナルドのドリンクのようなS・M・Lといった客観的なサイズは、悩みや苦悩には存在しないはずなのに、「大したことがない」「もっと大変な人もいる」というようなニュアンスを含む発言は、勇気を出して悩みを告白した当人のこころを知らず知らずのうちに傷つけている可能性をはらんでいるのです。

私がお会いするクライエントの方たちの多くも、「大したことないんですけど…」「こんなちっぽけなことで悩んでいるのは、私くらいですよね?」とおっしゃいます。おそらく、私のところにやってくるまでに人には相談したけれども、「些細なこと」とか「我慢が足りない」とか「もっと大変な人いるよ」というニュアンスを含んだ発言に傷ついたからこそ、ご自身の悩みや苦悩を「大したことがない」「こんなちっぽけなことで」と表現するのだと思います。

私が尊敬するセラピストであるSue Danielは、ワークショップのセッションの中でよくこんな話をします。

悩みや苦悩をひとりで抱え込んでいるクライエントは他者との関係性が寸断された”孤独”の状態にある。その”孤独感”こそが、クライエントを精神的に追い詰めていくものの正体だ。セラピストの役割は、そのクライエントが「他者と繋がり(関係性)を作る」のを助けること。だから、セラピストがクライエントの悩みや苦悩を共感的に受けとめて、彼らにとっての”最初の他者”になることが大事なのだ…と。

経験年数という意味では、気がつけばあっという間に中堅と呼ばれる立場になってしまいました。それは、「慣れ」や「驕り」が生じやすい立場でもあります。クライエントさんの悩みや苦悩を「わかったつもり」になって、彼らの絶望感や孤独感が深まらないよう、彼らの声にできない「こころの叫び」にもしっかりと耳を傾けていくことが大事なのだ。改めて、そう思いました。

「初心忘るべからず」の精神で、これからもしっかりと目の前のクライエントさんと向き合っていく所存です。

カウンセリングオフィスプログレス
臨床心理士  向 裕加

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