「よしよし」という安心感
札幌市中央区大通にあるカウンセリングオフィス プログレスの向 裕加です。
私が臨床心理士として、一方的にではありますが尊敬している先生が何人かいます。
ひとりは、東京で洗足ストレスコーピング・サポートオフィスを主宰している伊藤絵美先生。とても聡明なのですが、気取ったところは全くなく、フレンドリーでユーモアのセンスも抜群な女性です。学術的な論文や専門書を多数執筆しておられますが、どんな方にでもわかりやすく説明している一般書も多数出版されておられます。認知行動療法やスキーマセラピーなど、ブログの読者の方の参考になること間違いなしです。
もうひとかたは、原宿カウンセリングセンターを主宰する信田さよ子先生。前々職の上司である札幌医大の名誉教授である齋藤利和先生と信田先生が仲が良かったこともあって、私が入局する前には信田先生をお呼びして小さいグループでの勉強会もあったそうなのですが、残念ながら、私はそのような機会に恵まれませんでした。それでも、信田先生が講師を務める大きな研修会や講演会に参加することがあって、信田先生の魅力にすっかりひきこまれてしまったんですよね。というのも、信田先生は、ズバッ！とぶった斬るような鋭い物言いをする女性で迫力があるのですが、その背後にある「クライエントの心は絶対に守る」というクライエントに対する愛情を感じるから。サバサバしているけれども、包み込むような暖かさもあるという肝っ玉母さん…というイメージで、一方的に「カッコイイ！」と信田先生に憧れています。
そんな信田先生が最近千葉県野田市で起きた小４女児の虐待死事件に言及したインターネットの記事、”子どもの成長に影響するのは「愛情」よりも「安心感」だった”は、とても素晴らしい内容です。是非とも多くの方に読んでいただきたく思いまして、今日はご紹介をさせていただきます。詳しい内容は記事を読んでいただきたいのですが、これは親である人、これから親になるであろう人に限定されることなく、たくさんの人に読んでほしい記事です。というのも、自分のことを大切に扱うことができるようになるためのヒントが隠されているように思うからです。
オフィスを訪れるクライエントの多くは、自身の「感情を抑圧」し、それが故に様々な心理的な問題を抱えています。感情は人間にとって当たり前のものであるのにもかかわらず、それを抑圧してしまうにはちゃんと理由があります。ほとんどの場合、その感情を受けとめてもらえなかった経験から、「感情を表現するのは悪いこと」を押し殺してしまい、それが慢性化してしまうのですが、抑圧された感情は適切に処理（プロセス）されていないので、一定のポイントに達すると爆発してしまうんです。それが人間関係を壊してしまったり、生きづらさを助長してしまったりしているように見受けられます。
泣いている子どもに向かって「泣くんじゃない！」というのは、泣くという身体の反応と関連する気持ち（悲しい、悔しい、怒っている…などの感情）を否定するということ。つまり、「そういう気持ちを感じてはいけませんよ！」と禁止していることになるんですね。これが「感情の抑圧」へと繋がっていくのですが、子どもたちに限らず、私たちの生活の中では、こういうことが何気に頻繁に起きているわけです。どおりで生きづらいわけですよ！
私がカウンセリングで大切にしていることのひとつに、「感情を受けとめること」があります。信田先生の記事の中の言葉をお借りすると、まさに「よしよし」という感覚。日本語でぴったり表現できる言葉が、まだ見つかっていないのですが、英語で表現すると"It's OK to feel that way"という感じでしょうか。「そんな気持ちになるのも当然だよね」とまずは受けとめることからスタートしています。そうすることは「安心感」をもって自分の中で湧き上がってくる様々な感情に触れることを可能にし、それを適切にプロセスすることによって落ち着きや自信などを獲得し、その個人の本来のあるべき姿に近づいていくことができるようになるのです。
安全な場所で自身の感情に触れ、それを適切にプロセスすることが人間の成長には不可欠であることを考えると、「よしよし」という安心感がもたらす影響は、私たちが想像している以上に大きいものかもしれません。マジックワードは「よしよし」。まずはここから始めてみませんか。
