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沈黙という名の受動的な攻撃

その昔、こんな言葉を言い放たれたことがあります。

「この沈黙、一体、何の意味があるんですか?」

「カウンセリングを受けたい」と自ら私のもとにやってきた人に、こう言われました。カウンセリングを受けたいとやって来られたのですから、何か困ったことがあったのでしょう。何が起こったのか、何に困っているのか、どんな気持ちなのか…。それを引き出そうと私から質問を投げかけるも、反応はなく、沈黙となってしまうことがほとんど…という状況で、30分間ほど続いた長い沈黙を破った一言が、これだったのです。

カウンセリングのおける”沈黙”は、それほど珍しいことではありません。カウンセリングに不慣れで緊張していたり、「こんなことを言ったらどう思われるだろう?」と不安になったり、内気な性格だったり、投げかけられた質問の答えを探すためにじっくりと自分の心と向き合っていたり…というプロセスの中で”沈黙”が生じることは、むしろ、よくある話です。カウンセラー側は”沈黙”にはこのような意味があるということをしっかりと把握し、クライエントが自分のペースで言葉を発することができるよう”待つ”ことが求められます。

ただし、これは、あくまでも一般論。というのも、時々、”沈黙”はあえて作られることがあるからです。冒頭で紹介したセリフを発したクライエントの”沈黙”は自然発生的なものではなく、無意識のうちに”あえて”作り出されたもの。なぜ、このクライエントは”あえて沈黙する”ことを選んだのでしょう?それには、理由があります。

このクライエントが相談に訪れるときは、必ずと言って良いほど、人間関係がこの人が思うようにいっていないときでした。物事がうまくいっていないときというのは、自分のコントロールが効かなかったり、自分の力が及ばなかったりするため、無力感を抱くことが多く、フラストレーションを感じやすい心理的には脆弱な状態にあると言えます。もちろん、この方もそうでした。

人間はバランス(均衡)を維持しようとする生き物なので、均衡が崩れたときには、均衡状態を回復しようと様々なことを試みます。この人がカウンセリングにやってきて、”あえて沈黙する”ことを選んだのは、この均衡状態の回復のためだったと思われます。

沈黙は、曖昧さだらけです。相手は目の前の沈黙を貫いている人がどのようなことを考え、何を思い、どう感じているのか?が、全くわかりません。それは、混乱や苦痛を引き起こします。また、「自分が何か悪いことをしたのではないか?」などと思ったり、沈黙の意味を探ろうとして、多大な感情やエネルギー、そして、時間がそこに費やされる訳です。ここでコミュニケーションの主導権を握っているのは、沈黙を貫いている人。”沈黙する”ことで、相手をコントロールしている、つまり、操作しているのです。そして、相手はこの状況に対して何もできないことを無力に感じ、フラストレーション状態に陥ります。相手を弱体化させるという意味では、”沈黙”は受動的な攻撃とも言えるでしょう。

実際、私もそうでした。このクライエントがどのようなことを考え、何を思い、どう感じているかが全くわからない状況に困惑し、そして、沈黙の時間は苦痛でもあり、その状況を変える力が自分にはないことを無力に感じていました。そんな脆い心理的な状態に陥ってるときに「この沈黙、一体、何の意味があるんですか?」の一言は、キツイですよね〜(苦笑)。「だんまりを決めたのは、あなたじゃないの!?」という怒りの気持ちを抑えなければならないことに加えて、その言葉には「あんたって、ダメなカウンセラーね」というようなニュアンスが含まれていて、無力に感じていた私は、更なるダメ出しを喰らってノックアウト寸前でした。このクライエントは、とてもおとなしく、自己主張ができないタイプなので、自分の人生を主体的に生きることができずに、「自分ではどうにもできない」とコントロール感を失いがちになりやすかったのだと思います。カウンセリングは、目の前のクライエントを「受容する」ことが基本ですから、日常の生活の中では否定されたり、非難されたり、拒否されたりするリスクがあるようなことでも、心配することなく口にできるというメリットがあります。だからこその言動だったのでしょうが、カウンセリングの中で生じる関係性や出来事は、ある側面ではその人の日常の関係性が反映されたものでもあるので、恐らく周囲の人たちにも似たようなことをして、無意識のうちに攻撃してる可能性も考えられます。

攻撃されて、良く思う人はいません。攻撃を仕掛けられた方は、やられっぱなしにならないように反撃するか、自分を守るために逃げるかのどちらかを選択するでしょう。いずれも人間関係に大きな影響を及ぼします。そう考えると、この人の人間関係がうまくいかないのは、本人自らが引き起こしている可能性だってあり得るのです。

こういう言動の背景には、必ずと言って良いほどパーソナリティの問題(自己愛)が影を潜めています。なので、カウンセリングではその辺りにフォーカスを当てていくことになりますが、かなりの時間を要します。また、こういう問題は問題を抱えている人の周囲の人は問題視していますが、本人はそれほど問題とは思っていません。それどころか、「私はいじめられている」「みんな、私のことを嫌っている」と被害的になることが多いので、周りの人が困ることが多いようです。

なかなか難しい問題ではありますが、臨床心理士として、私も度々ぶち当たる問題です。来年臨床心理士の3度目の資格更新を控え、私の臨床経験も15年以上にもなるわけですが、まだまだ臨床家としては道なかば。たくさんのクライエントに多くのことを勉強させてもらっていることを、たくさんの人に、そして、社会に良いかたちで還元していくためにも、日々精進ですね。昔の出来事を思い出しながら、そんなことを感じています。

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臨床心理士  向 裕加

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