今を生きるということ
あれは2年前の夏の終わりのこと。高校の同級生の彼女と、何年かぶりにランチに出かけました。「裕加ちゃんには、私も相談したい事があるの。お仕事みたいになっちゃったらゴメンね」。そう言っていた彼女とランチしながら色々な話をしました。
彼女とは高校1年生のときに同じクラスになって以来仲良くしていたので、25年以上もの長い付き合いだったはずなのに、彼女から語られることは「そうだったのか…」と初めて聞くことばかり。温和で穏やか、謙虚で、他者に対する気遣いができる彼女は、私と同じ年なのにキャピキャピしたところがなく、ふとした瞬間に、どこか大人びたクールで寂しげな表情を見せることがありました。私はそんなクールな彼女のカッコいい一面に憧れていた反面、彼女との間にちょっとした距離を感じることがあり、それを淋しくも思ったりしていましたが、その日、初めてその理由がわかったような気がしました。
彼女の家族は、どこにでもいる家族です。親御さんがアルコール依存症の問題を抱えているとか、家庭内で暴力があるとか、お父さんとお母さんが不仲だとか…そんなこととは一切無縁の”普通”の家族です。でも、彼女の話を聴いているうちに、気づいたことがありました。彼女が、お母さんに対して非常に複雑な想いを抱いていたということ。母と娘の間に生じていた心理的葛藤を、彼女は「親とうまくやっていけない自分がダメだ」と過度に責めていたのです。それは、彼女の人生の色んな側面に影響を与えていて、特に、人間関係での影響は非常に大きなものでした。特段何があったわけでもないにもかかわらず、”生きづらさ”を抱えていたのも無理はない。そう思いました。
彼女の話を聞きながら、私は、彼女とお母さんの間に何が起こっていたのか?そして、それが彼女の思考や行動、そして周囲の人との人間関係にどのような影響を与えてきたのか?…を、彼女と一緒になって整理をしました。もともと頭の良い彼女は、このプロセスを通して「あれは、こういう意味だったのか!」「そっか、そのときはこんなことが起きていたんだね」と、短い時間の中で、母娘間の理解だけでなく、自分自身に対する理解を深めることができました。そして、後日、彼女からこんな言葉をもらいました。
「随分、楽になったよ!」
それだけでも十分私は嬉しかったのですが、その後、彼女はみるみるうちに変化をしていきました。
体調を壊して長らく勤めた前職を退職した後、人間関係で悩むことも多かった彼女は、人間関係のストレスを回避すべくしばらく仕事に就くことがありませんでしたが、「仕事に出てみようと思う」と再就職を決意。それも、彼女が得意とする分野!仕事をしていなかった期間が思いの外長くなってしまっただけに不安も大きかったようですが、「とりあえず、やってみる!」と一歩を踏み出した彼女は、今、やり甲斐をもって、そして、とても楽しそうに仕事をしています。職場での人間関係も良好で、職場の人とのおしゃべりも、仕事の楽しみのひとつになっているとか。そして、それまでは家族や他人優先で自分のことは後回しになりがちな彼女でしたが、少しずつ自分のことを優先できるようにもなってきて、今はもっぱらランニングに夢中になっています。「こんな年になって、こんなに一生懸命になれるとは思っていなかった!」先日、一緒にランチしたときにそんなことを口にしていた彼女の瞳は、高校生の頃に時折みせていたちょっと憂いのある瞳とは異なって、少女漫画に出てくる登場人物の瞳並み(笑)にキラキラと輝いていました。おそらく、これが彼女の本来の姿なのでしょう。あふれんばかりの彼女の笑顔を見ていて、友人として嬉しくて、胸がいっぱいになりました。
また、「人と関わるのが本当にキツイんだ…」と言っていた2年前とは違って、今はどんどん知らない人の輪の中にも積極的に入っていってます。ちょっと前まで割と控えめな子だったので、「無理してないかしら?」と心配したりもしましたが、むしろ、広がっていく世界を存分にエンジョイしているようで、私の心配は杞憂に終わりました(笑)。「一度きりの人生、楽しまないと損!」と、人との出会いや交流を通して、まるで水を得た魚のようにイキイキとしている彼女は、以前にも増して綺麗になりました。
いくつになっても、人は変わることができる。「今」を生きることができて、初めて過去は過去となり、「今」を生きることの喜びは、明るい未来へと繋がっていく。今、正に、彼女がそれを体現してくれています。
こんな風にどんどん変わっていく彼女を見て感じることは、カウンセリングを通して、彼女のようにイキイキと生きる人が増えて欲しいということ。そして、彼女のようなイキイキと生きる人が、この街に増えることで札幌全体が元気になっていくことを、私は切に願っています。
ちょっと勇気を出して、カウンセリングを受けてみませんか?あなたの明るい未来への第一歩をサポートさせていただきます。
カウンセリングオフィス プログレス
臨床心理士 向 裕加