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「亭主関白」と「モラル・ハラスメント」

札幌市中央区大通にあるカウンセリングオフィス プログレスの向 裕加です。

1970年後半にヒットしたさだまさしさんの「関白宣言」という曲をご存知でしょうか?私と同世代、また、年上の世代の方にはお馴染みの曲かと思いますが、「知らない!」という若い世代の方は是非Youtubeの動画を観てみて下さい。

♪お前を嫁にもらう前に言っておきたいことがある
かなり厳しい話もするが、俺の本音を聞いておけ
俺より先に、寝てはいけない
俺より後に、起きてもいけない
飯はうまく作れ、いつも綺麗でいろ
できる範囲で構わないから♪

現代の女性にこんなことを言ったら「はぁ!?何言ってるの?」と言われるような内容(笑)ですが、一昨年のクリスマスイブにサッカー日本代表の長友佑都選手と婚約会見をした平愛梨さんが、「あのような女性になりたいというのが、理想」「あのように芯の強い、耐え忍ぶ女性が、すごく理想です」と熱く語ったことで、「関白宣言」が再び注目されるようになりました。

「亭主関白」とは夫が関白のように家庭内で威張っている様子のことを表現する言葉です。一昔前までは「こんな、まずい飯が食えるかーー!!」とちゃぶ台をひっくり返す夫にも、”芸のためなら女房も泣かす”夫にも、耐え忍ぶのが妻たる者の役目であり、「亭主関白」という言葉で片付けられてきたことも、現代においては「モラル・ハラスメント」に匹敵する可能性が十分にあることを、私たちは知っておく必要があります。

「モラル・ハラスメント」とは1990年代にフランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌによって提唱された概念で、言葉や態度などによって心を傷つける精神的暴力のことを言います。傷が生じることで問題が顕在化しやすい身体的暴力と異なって、言葉や態度によって傷つけられた心は目に見えないため、問題が問題として捉えられないことが多いのも特徴です。特に、夫婦、恋人やパートナー間におけるモラル・ハラスメントは「亭主関白なだけ」と取り違えられることも少なくありません。

先日、知人が友人夫婦の話をしてくれました。

奥さんはお料理がとても上手な方なのに、旦那さんは「お前の料理は不味いんだ!こんな不味いものを食わせるだなんて、お前は何を考えているんだ!」とファーストフードのお店に外食に行ったり、コンビニでお弁当を買ってきて、彼女の目の前で、これ見よがしに「美味しい、美味しい!」と言って食べるそうです。また、事が旦那さんの思い通りに運ばないと、「お前のせいでこうなったんだ!どうしてくれるんだ!」と彼女を怒鳴りつけたり、奥さんが些細な失敗をしたときは「お前は本当に馬鹿だよな。何をやらせてもダメな人間だ。使い物にならない!」などと罵ったりもするとのことでした。

当初は、奥さんも反論してたそうなのですが、反発すればするほど相手からの攻撃が激化するので、今では「こんなに怒られるのは自分が悪いからだ」「自分が間違ったことをしたに違いない」と言うのみ。このプロセスは、心理学的には「学習的無力感」と言われるもので、「自分にはどうすることもできない」という考えが定着化されることによって、ハラスメントを訴えたり、それに対して反発したり、助けを求めたりすることすらなくなってしまいます。モラル・ハラスメントが問題として顕在化しにくい背景には、被害者側に植え付けられた「学習的無力感」という要因の影響もあるのです。

ハラスメントを受けても、被害者が自分を責め、無力感から何もすることができなければ、さらなるハラスメントにつながる…という負の連鎖があっという間に形成され、ここから抜け出すことはかなり難しくなります。特に、夫婦や恋人・パートナーとの関係におけるモラルハラスメントは、関係性が2者間に限定されていることもあり、他人の目に触れにくいことから、「この関係性は健全ではない」という客観的な視点に欠けているのも、モラル・ハラスメントにメスを入れにくい要因のひとつです。

モラル・ハラスメントは、当人同士で話し合いをして解決することが非常に難しい問題です。被害者側に植え付けられた「学習的無力感」は一種の「洗脳状態」であるため、その状態を解くためには加害者側と被害者側の物理的距離をとることが重要となってきます。第三者を介入して問題の解決に当たる場合にも、注意が必要です。

というのも、モラル・ハラスメントをする人の特徴の一つに、加害者以外の人には「良い人」であることが多いため、第三者に訴えたとしても「まさか、あの人が!?」と信じてもらえないことがあったり、それこそ年長者の”昭和の人”に相談したとしても「そのくらい我慢して当然よ」「そんなこと言ってるのは、あなたがわがままだからよ」などと言われて、さらに傷つく可能性があるからです。

周囲の理解を得られない場合には、専門家の手を借りて、自分自身が置かれている状況が「モラル・ハラスメントである」という正しい認識を持つこと、そして、知識を得て、「自分が悪いからだ」という強い自己否定感や自己関連付けから解き放たれることで、「学習的無力感」の負の連鎖に巻き込まれない力を身につけることが大切です。

「ひょっとして、夫(パートナー・恋人)のしていることはモラル・ハラスメントかも?」と思ったら、相談してみてください。その際に役に立つのは、相手から言われたことやその日にちや時間帯、頻度など、具体的、かつ、客観的に把握しやすい記録。少しでも疑わしいことがあれば、記録に残しておくことをオススメします。

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臨床心理士  向 裕加

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