カウンセリングオフィスProgress

English Page

カウンセラーブログ

告白

札幌市中央区にあるカウンセリングオフィス プログレスの向 裕加です。昨日は「山の日」という初めての祝日でしたね。当オフィスはお休みをいただいておりましたが、みなさんはこの初めての祝日をどう過ごされましたか?

さて、唐突な質問なのですが、みなさんは「死にたい」と思ったり、実際にそれを実行に移す行動をとったりしたことはありますか?なぜ、私がみなさんにこんな質問をしたかには、ちゃんとした理由があります。

私はFacebookで自分の母校の大学、University of British ColumbiaのFacebookページをフォローしています。先日、つい数ヶ月前に着任したばかりの学長 Dr. Santa Ono(小野 三太。日系二世のカナディアン-アメリカン)がアメリカシンシナティの郊外の某所で、200人ほどの聴衆に向けてティーンエイジャーのメンタルヘルスや自殺に関する疫学のお話をしたという動画がアップされていました(→その動画はこちらから)。北米では実に5人に1人の割合でティーンエイジャーに自殺願望があったり、実際に自分の命を絶とうとしたりしているそうです。そして、Dr. Ono自身も「自分も若いときに同じような自殺願望を抱いていた」とその聴衆の前で告白したそうです。

Dr. Onoは、この告白を"The boldest things I ever done"と表現されていました。つまり「今までで一番勇気が要ったこと」が、この告白だったわけです。Dr. Onoは、死を考えるほど辛いことがあったとしても、助けを求めたり、友だちと話したりすることでトンネルの先にある光を手に入れられること、そして、メンタルヘルスに関する偏見を取り除くには、「メンタルヘルスについて話し合うこと」が大切であると思ったからこそ、自らの非常にプライベートな経験を大勢の前でお話しされたとのことでした。

24歳のとき、私にも「死んでしまったら、どんなに楽だろうか?」と思いながら過ごした日々がありました。当時、私には大学生の頃から付き合っていたカナダ人の彼がいました。私が大学院を修了するまでの2年間、彼は札幌の英会話学校で働き、その後は結婚してカナダに一緒に戻ろうと約束をしていた相手でした。しかし、少しばかりブラット・ピットに似ていた彼は、札幌で大モテ。忘れもしない2000年のGW直前、彼は別の女性の元へ行く決断をしたのでした。

4年半付き合って、口約束ながらも結婚まで約束をしていた人が、あっさりと他の女性の元へ行ってしまった事実を私は受け入れることができませんでした。カナダに住んでいたときは、その彼と一緒にホームステイ先のファミリーのところへよく遊びに行っていたので、彼のことを知るホストマザーにも泣いて電話をし、自分の気持ちをたくさん話しました。彼の心変わりを受け入れることができない私の話を静かに聴いてくれたホストマザーは、「Yuka、あなたの悲しい気持ちは十分わかるわ。でも、残念なんだけれども、変わってしまった彼のこころを変えることはできないのよ」と言って電話を切りました。そして、この会話が彼女と私の最後の会話となったのです。

というのも、そのときも具合が芳しくないと話していたのですが、胆石をお医者さんが誤診をしたために適切な治療を受けることができず、容態が一気に急変。電話を切った数日後、私はホストファーザーからの一通のメールで彼女の死を知りました。単身での長い留学生活を支えてくれたのはホストファミリーのおかげだと言っても過言ではなく、私を本当の娘のように可愛がってくれたホストマザーをこのタイミングで失い、私は失意のどん底に落とされた気持ちでいっぱいでした。

とても大切にしていた人が2人もいっぺんにいなくなってしまったダメージは、想像していた以上に大きいものでした。心身ともに衰弱しているのに、続く眠れない日々。食べ物が喉を通らず、1か月ほどで体重は一気に8kg減少。何にもないのに出てくる涙を止めることもできない。集中力も全くないし、誰にも会いたくない。彩り鮮やかだった世界は、途端に白黒映画のようなモノトーンの世界になってしまいました。毎日、息をしていることすら辛く、苦しく感じられ、地下鉄がホームに入ってくるたびに「飛び込んだら、この辛さや苦しさから解放されるのだろうか?」と、そんなことを考える毎日でした。後に勉強をしてわかったことですが、当時の私は喪失体験が契機となって間違いなく「うつ状態」に陥っていたのです。

そんな私を間近で見ていた家族はとても心配していましたが、なんせ、私の家族はこういうことに関しては、どうしたら良いかわからない人たちばかり。むしろ、「そんなことを考えたって仕方がないでしょ?」とクールなんですよね。確かに、その通りなんです。でも、そんな風に言われてしまうと「落ち込んでいると家族に迷惑をかけてしまう」と話をすることもできないですし、家には自分の居場所がないとすら感じていました。

それでも、私には話を静かに聴いてくれる友人や年上の従姉がいました。泣いても、落ち込んでも、同じ話を繰り返しても、否定することなく、ただただそんな私を受けとめてくれる。もちろん、話をすることだけで何かが劇的に変化したわけではありません。でも、話すというプロセスを通して、少しずつ私はこころの穏やかさと元気を取り戻すことができたのです。きっと、話をしっかりと聴いてもらえる安心できる環境の中で、触れることを恐れていた負の感情に触れ、向き合うことができたからでしょう。そして、その道のプロフェッショナルとなった今は、ひとりで抱え込まずに助けを求め、自分の気持ちを誰かに話すことができた当時の私に「よくやったね〜」と言いたいと思うと同時に、私に寄り添ってくれた友人や従姉にこころから感謝しています。

メンタルヘルスの問題は、誰にでも起こりうる問題です。しかし、誰にも話すことができず、人知れず悩んでいる人が多いのも事実です。確かに話を一度しただけで問題が解決したり、何かが劇的に変化することはありませんが、トンネルの向こうに見える光に近づく”きっかけ”になることは確かです。それは、私自身も経験してきたことです。

Dr. Onoの願いは、私の願いでもあります。助けを求めることや人と話すことができるようになれば、長く暗いトンネルの先にある光にたどりつくことができるようになることを多くの方に知っていただきたい。そして、誰にでも起こりうる問題について誰もがオープンに話すことができるような偏見のない社会にしていきたい。そんな思いから、私自身のパーソナルな経験を告白させていただきました。

私のこの告白が、みなさんが一歩前に踏み出す勇気につながれば幸いです。

カウンセリングオフィス プログレス
臨床心理士  向 裕加

English Page


lgbt Ally
lgbt Ally

カウンセリングオフィスprogress

〒060-0042
札幌市中央区大通西1丁目14-2 桂和大通ビル50 9F