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『夫のちんぽが入らない』を通して考える「ふつうって何かね?」

札幌市中央区大通にあるカウンセリングオフィス プログレスの向 裕加です。

今朝は−14度と、一段と冷え込んだ朝を迎えた札幌ですが、ピーンと張り詰めた澄んだ空気が広がる朝は嫌いではありません。背筋がシャキっとなって、むしろスッキリした気持ちになります。

さて、昨日チラッとご紹介させていただいたこちらの本。
『夫のちんぽが入らない』

とてつもなく衝撃的なタイトルの本ですが、みなさんはこの本のことを耳にしたことはありますか?今月18日に発売されたばかりですが、発売日からわずか1日で重版が決定。発売日から1週間も経たないうちに、累計6万部を超えるヒットとなっている話題の本です。札幌市内の書店からは、姿を消したとかいう噂もチラホラ…。

『夫のちんぽが入らない』というタイトルから想像されるイメージとは裏腹に、内容は性行為に関するお話ではありません。エロ本でもありません。

著者のこだまさんである「私」は、大学で出会った彼氏(その後、夫となる男性)と初めて性行為をしようと試みるも、痛みと出血から「ちんぽが入らない」という事態に陥ります。

”女として生まれ、ベルトコンベヤーに乗せられた私は、最後の最後の検品で「不可」の箱へ弾かれたような思いがした。私はどうなってしまうのだろう。目の前が真っ暗になった。”

誰にでもできる「普通」のことができない。何度も、何年も試みても「ちんぽが入らない」。「自分の不能さに打ちひしがれた」という「私」に拍車をかけるように判明した事実は、「夫以外のものなら、入る」こと。この事実が、彼女の苦悩をさらに深いものにしていきます。

仕事でもつまづき、退職に追い込まれ、仕事をしていない社会人の「私」。退職後は主婦として夫を支えようとするも、突然発症した病から、子どもすらいないのに家事も満足にできない「私」。

”お饅頭に「駄目」の焼印を押される。薄皮が、じゅっと白い煙を上げて縮む。おもてに出ると、鉄の焼きゴテを持った人たちが待ち構えている。もう何も訊かれたくない。焦げたくない。”

他の人が「普通」にできることが自分にはできない。世の中がいう「普通」の道を選ぼうとすると、その道は「不通」になっていて、自分だけが先に進むことができない。でも、「普通」という名に身を潜める正論や常識は有無を言わせずにプレッシャーをかけてくるけれども、厄介なことに、そこに悪気はない。それが、また「私」の苦悩を根深いものにさせる。

こんな閉塞感と絶望感、葛藤に悩まされているのは、何もこだまさんだけではないはず。大なり小なり、みなさんにも似たような経験はありませんか?

私自身は、「普通」に結婚をしてもいなければ、「普通」に子どもも産んでいません。世間一般とされる「普通」の家族観がない私に欠陥がある…ということをハッキリと言われたこともあります。それこそ、私というお饅頭に「駄目」の焼印を押されたような気持ちでした。

「普通」の中身は異なれど、カウンセリングでも、多くの人が「普通」でいることにこだわりを持ち、「普通」じゃないことを憂いています。『夫のちんぽが入らない』で描かれているような、人は結婚し、結婚したら子どもを作るものだという「普通」の考えは、色んな意味で既に崩壊しているのにもかかわらず、それが少子化問題のような社会問題と結びつけられると、それが「正義」に一転してしまいます。そして「正義」という名の下で牙を剥いた「普通」が、私たちを苦しめているのではないでしょうか。

”ちんぽが入らない人と交際して二十年が経つ。もうセックスをしなくていい。ちんぽが入るか入らないか、こだわらなくていい。子供を産もうとしなくていい。誰とも比べなくていい。張り合わなくていい。自分の好きなように生きていい。私たちには私たちの夫婦のかたちがある。少しずつだけれど、まだ迷うこともあるけれど、長いあいだ囚われていた考えから解放されるようになった。”

こだまさん一個人の”私”の「不通」体験を通して考える”みんな”の「普通」。

「ふつう(不通/普通)って何かね?」

そう自分自身に問うてみることが、囚われから自由になる解放への第一歩なのかもしれません。

カウンセリングオフィス プログレス
臨床心理士  向 裕加

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